有機イメージセンサはCMOSイメージセンサを代替できるのか考察

 

最近イメージセンサ業界がにわかに活気立っていると思っております。

 

というのも最近Panasonicから有機イメージセンサを搭載した有機カメラを2019年に商品化するプレスリリースを発表したからです。

 

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URL: https://news.panasonic.com/press/jp/data/2018/10/jn181026-1/jn181026-1.html

 

これまでのカメラはSiで光電変換を行っています。

これが有機膜で光電変換を行うようになります。

これ、カメラユーザは興味をそそられないしあまり関係ないと取られる変化かもしれませんが、イメージセンサを扱う業界としては大きな変化なんですよ。

 

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URL: https://news.panasonic.com/press/jp/data/2018/10/jn181026-1/jn181026-1.html

 

有機イメージセンサの立ち位置としては、これまでのイメージセンサの歴史を書くと

 

CCD⇒(表面照射型)CMOSイメージセンサ⇒(裏面照射型)CMOSイメージセンサ有機イメージセンサ

 

と置き換わる可能性があるわけです。

 

Si光電変換から有機膜光電変換に切り替わるには、SiのCMOSイメージセンサをそのまま改良しただけではどうやってもたどり着けません。

 

業界地図を刷新してSiのCMOSイメージセンサを代替してしまう可能性を秘めた技術となるかもしれません。

 

こういった技術を破壊的技術と呼ぶのですが、ご興味あればクレイトン・クリステンセン著者のイノベーションのジレンマを読んでみてください。

URL: https://www.amazon.co.jp/%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%82%B8%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%9E-%E5%A2%97%E8%A3%9C%E6%94%B9%E8%A8%82%E7%89%88-Harvard-business-school-ebook/dp/B009ILGWS6

 

この有機イメージセンサが業界を刷新するポテンシャルを持っているか否かを考察してみたいと思います。

 

まずは、有機イメージセンサのスペックをISSCCの予稿から頂戴して、スマートフォン・一眼レフ・監視カメラ・FA・車載・ドローンの中からどの用途に適したカメラなのかを考察。

有機カメラは「放送と映像制作の幅広い用途に対応」と書かれていますし、イメージプロセッシングユニットを用意していることや、チップサイズ14.97×10.27mm、画素サイズ3×3umということから、その通りの用途でしょうから特に業務用途の考察はしません。

URL:

2013年VLSI: https://ieeexplore.ieee.org/document/6576670

2016年ISSCC: https://ieeexplore.ieee.org/document/7417931

2018年ISSCC: https://ieeexplore.ieee.org/abstract/document/8126258

 

チップサイズ14.97×10.27mm、画素サイズ6×6umということから小型なイメージセンサが必要なスマートフォン・ドローンはなさそうです。

 

性能としてダイナミックレンジが123.8dB、フレームレートが60fpsを実現していることを強調していることから、明暗のわかれる環境下での使用を想定していて、なおかつ高速で移動する物体を撮影するのでしょう。

 

そうすると一眼レフ・車載・監視あたりでしょうか。

しかし、車載は動作環境の温度が高く、過酷な環境で問題なく動くことを保証する必要がありますから、高温耐性が低めの有機材料を使用する有機イメージセンサは不利そうです。

 

また、ランダムノイズが5e-と若干高めであることから、高画質が必要となる一眼レフに適用するにはランダムノイズ低減が必要になりそうです。

 

ですので、現時点では一眼レフや車載よりも監視が用途として適している印象です。

 

次は、これら用途のイメージセンサを代替する性能があるのかを考察していきたいと思います。

 

まずは現行の製品との比較

有機イメージセンサ

素数: 1920×1080画素

DR: 123.8dB

フレームレート: 60fps

ピクセルサイズ: 6×6um2(用途によっては3×3um2)

 

■監視イメージセンサ

素数: 3096×2196画素

DR: ?

フレームレート: 30fps(ADC 12bit), 60fps(ADC 10bit)
ピクセルサイズ: ?⇒ユニットセルサイズ: 1.62×1.62um2

URL: https://www.sony-semicon.co.jp/products_ja/new_pro/october_2016/imx326lqc_j.html

 

ふと疑問に思った余談ですが、

8Kの有機カメラの画素数は7680×4320⇒約3200万画素

 

一方、ISSCCで発表されている有機イメージセンサは1920×1080⇒約200万画素

 

で16倍の画素数の差が発生しています。

ISSCCで発表された有機イメージセンサをそのままプレスリリースの有機カメラに搭載したものかと勝手に思っていましたが、違うかもしれませんね。

 

余談はここまでにして……

掲載されているスペックとして、画素数以外は特に劣っている点はなさそうです。

素数の増加は単純に微細化していけば良いので、画素サイズ1um程度までは問題なく増加できそうです。

 

しかし、論文にしか掲載されていない有機イメージセンサのノイズですが、これは間違いなく現行の監視用イメージセンサよりも劣っているでしょう。

 

現状で5e-以上のランダムノイズとリセットノイズですから、有機イメージセンサは画質が悪いと言われることは当分の間免れません。

 

しかしまぁ、CMOSイメージセンサが登場したときもCCDと比較して原理上画質が悪くてCCDを超えることはないと散々言われてきていましたが、結局技術の進歩によってCMOSイメージセンサのノイズも1e-を切るレベルに到達しているわけです。

同じようにノイズは有機イメージセンサの技術が成熟するころには問題となっていない気がします。

 

最期にコスト面の話をしようかと思います。

 

正直コスト面は有機イメージセンサの圧勝かと個人的に思っています。

 

理由は簡単で、処理回路上に蒸着法で画素となる有機膜を比較的少ない工程数で積層できるため、工程数が少ない分コストを抑えられるからです。

富士フィルム有機イメージセンサURL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/photogrst1964/71/2/71_2_75/_pdf

蒸着法の特許: https://astamuse.com/ja/published/JP/No/2013072122

 

現在主流の積層型の裏面照射型イメージセンサは画素回路と処理回路を別々に作ってから積層するため、どうしても工程数が多くなります。

 

また、画素回路作製に必要だったイオン注入がなくなることも工程数を減らすことのできる利点だと思います。

 

そんなわけで、最後にまとめますと

 

有機イメージセンサ

スペック: △

理由: ノイズ以外問題なし。ノイズもイメージセンさの歴史的に見て10年後改善する可能性あり

 

適応市場: ○

理由: 可視光から近赤外まで検出可能であるため、多くの市場に出荷できる

 

製造コスト: ○

理由: 処理回路に画素薄膜を積層するため工程数を削減できる

 

というわけで、代替するポテンシャルは十分持っていると思います。

監視カメラに関しては比較的すぐに代替が始まり、その他の用途は10~15年後にくるのではないかと思っております。

歩留まりと性能ばらつきがわかればもう少し考察したかったのですが、さすがに無理ですね。

 

それにしても、有機イメージセンサに必要となる有機光電変換膜は材料開発の分野なので、半導体屋さんとは違った人材が必要でしょうから、パナソニック富士フィルムの2社が組んで有機イメージセンサを完成させたのは上手な研究開発ですよね。