大企業が衰退するメカニズム

1. 大企業を苦しめるイノベーションのジレンマ

大企業に入社すれば将来安泰と呼ばれた神話が崩れつつある現代においても、まだまだ根強い人気を持っている大企業。

 

今回は大企業が衰退してしまうメカニズムである新製品を作る際の障害となるイノベーションのジレンマに関して、半導体業界を例に取って話したいと思います。

 

イノベーションのジレンマて何?と思う人がいるので簡単に説明しますと、大企業が新製品を生み出そうとする(イノベーション)と陥る会社組織の欠陥(ジレンマ)のことです。

 

このジレンマがあるため大企業が衰退して事業から撤退したり事業を譲渡したりしてしまいます。

 

2. 製品性能を向上させていく2種類の技術

新製品を生み出そうとする際には、その製品の売りを作るために、技術者達はこれまでの製品の悪かった点やもっと良くなる点を改善して、以前発売した製品を超えるものを作り出していきます。

 

この改善する技術を持続的技術(持続的イノベーション)と呼びます。

 

持続的技術によって生み出された製品Aは、大企業が成熟した市場を入念なマーケティングをして市場規模や顧客調査をすることで、どれぐらいの売り上げを得ることができるか知ることができるので、安心して市場参入していきます。

一方、これまで想像もできなかったような新技術を導入することで、持続的技術によって成長してきた製品Aを一新してしまう技術を破壊的技術(破壊的イノベーション)と呼びます。

 

破壊的技術によって生み出された製品Bは、性能向上が十分ではなく市場に出回っている製品Aよりも明らかに性能が劣っているため、製品Aと同じ市場で発売できず、新しい市場で発売しようとします。

 

しかし、新しい市場はマーケティングをして市場規模や顧客調査をして将来性を知ることが困難であることが多く、大企業の社内で話をしても関連部署全体の理解を得ることができず市場参入しません。

 

そうこうしているうちに、製品Bは持続的技術の恩恵を受けてどんどん性能を向上させていき、いつしか製品Aを超えた性能を製品Bが持つようになります。

 

その頃にようやく大企業は製品Bの開発を認め製品開発がスタートしますが、時すでに遅く、先行する企業から周回遅れで開発をすることになってしまい、繁栄していた大企業は年月が経つにつれて衰退していきます。

 

この大企業特有の市場見積もりができないことによる製品Bの開発の遅れと衰退をイノベーションのジレンマと呼びます。

 

この現象に関して、半導体業界で起こった製品を例に次で説明していきます。

 f:id:Semicon:20200523173243p:plain

図1. 持続的技術と破壊的技術による性能向上

 

イノベーションのジレンマに関して、もっと詳しく知りたい人はクレイトン・クリステンセン著者の有名な本がありますので、ぜひ読んでみてください。
URL: https://www.amazon.co.jp/%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%82%B8%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%9E-%E5%A2%97%E8%A3%9C%E6%94%B9%E8%A8%82%E7%89%88-Harvard-business-school-ebook/dp/B009ILGWS6/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=1MDLU35PQ5M9A&dchild=1&keywords=%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%82%B8%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%9E&qid=1590211154&sprefix=%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%2Caps%2C261&sr=8-1

 

3. HDDからSSDの新時代へ

半導体業界でイノベーションのジレンマが起きた製品というのは、HDD(製品A)とSSD(製品B)のことです(図2)。

 

HDDとSSDの中身を見てみるとわかりますが、製品の中身ががらりと変わっていることがわかります。

 

HDDは磁気ディスクが回り、磁気ヘッドがそのデータを読み取る構造を持っていますが、SSDにはそういったメカニカルに動く部品が全く存在せず、黒く四角いもの(フラッシュメモリ)がいくつも並んでいるだけです。

 

これが破壊的技術の恩恵を受けた効果です。

f:id:Semicon:20200523173422p:plain

図2. HDDとSSDの中身


SSDが誕生した当初は、当然HDDに勝てるような容量(性能)は持っていなかったわけです。

 

当時でも、デジタルカメラに搭載できるレベルの数MBの容量しかなかったのに対して、HDDが80MBでした。

 

当然PC市場に必要とされる性能を満たしていませんし、容量的に非常に劣っています。

しかし、SSDはHDDにはない落下の衝撃に強い、動作が速い、小型にしやすい利点を持っています。

そして、持続的技術によって年々SSDの容量は向上していき、近年ではPC市場でも問題なく使えるレベルまで成長しています。

 

こうなってくると、容量は同じだけど落下の衝撃に強い、動作が速い、小型にしやすい特徴を持っているSSDの方が良いという人がいくらでも現れ始めます。

 

HDDは持続的技術によって容量を向上させてきていますが、破壊的技術によって生み出されたSSDによってどんどん市場を奪われてきています(図3)。

 

f:id:Semicon:20200523173658p:plain
図3. HDDとSSDの市場と出荷数の推移

 

4. 大企業の衰退

この段階になると大企業がSSD事業に乗り出しても、既に先行した企業から周回遅れ状態になっており、時がたつにつれて大企業が衰退していくわけです。


破壊的技術による市場変化に対応できなかった企業は非常に多く、衰退してしまった事業の大幅縮小や撤退などで被害を最小限に抑えようとしました。

 

私の知る限り、HDD事業からSSD事業に切り替えることができたのはサムスン東芝、ウエスタンデジタルくらいでしょうか。

他のHDDを製造していたIBM富士通NECなどの多くの会社はSSDという破壊的技術によって居場所がなくなってしまったのです。

 

恐ろしいことは、イノベーションのジレンマ半導体業界だけでなくどの業界でも起こり得る現象であり、No. 1企業だった大企業がいつ何時窮地に立たされてもおかしくないことです。


今大企業に在籍している人は、大企業に在籍していて将来安泰と思っていると、いつの間にか破壊的技術によって台頭してきた企業によって自分の会社の業績が悪くなり、会社がつぶれたり部署ごとリストラされたりする可能性があることを知っておいてほしいのです。