MRAM積層イメージセンサは実現するのか考察

  1. MRAMの普及

MRAMの研究開発が佳境を迎えています。

 

TSMC, GF, Intelから組み込みMRAM(eMRAM)の量産を発表している状態で、次はDRAMを代替する可能性があります。

まだ容量不足感が否めないですが、技術進歩とともに容量増加していき代替が進んでいくでしょう。

URL: https://news.mynavi.jp/article/20190311-786944/

 

MRAMの普及時期に関して、MRAM研究の権威、東北大学遠藤先生の日経エレクトロニクス記事(2020年6月号)のコメントが面白かったため引用してみます。

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 MRAMに限らず、新技術の実用化には手順を踏む必要がある。まず、エンジニアリングサンプルで特定ユーザーに、信頼性や実装技術などを評価してもらってから正式に受注を受け、量産ラインで製造するまでおよそ3~4年掛かる。かつてのDRAMやNANDフラッシュもそうだった。

 MRAMの場合、サンプル出荷から3~4年後といえばちょうど2021年秋から2022年にかけてになる。

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大規模なMRAM普及はもう目前まで来ている状態で、DRAMだけにとどまらずSRAMも代替する可能性があります(図1)。

 

さて、この記事を読んでいて疑問に思ったのは、MRAMの大規模普及にともなってMRAMを積層したデバイスがどれくらいで世に普及するようになるのか、という点です。

 

具体的にはイメージセンサにMRAMが積層したMRAM積層イメージセンサがいつ頃世に普及するようになるのかが気になりましたので、考察していきたいと思います

 

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図1. MRAMの普及予想

URL: https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/ne/18/00059/00001/?P=3

 

  1. MRAMはイメージセンサ業界にやってくるのか

実はすでにLogic, DRAM, CIS(CMOS Image Sensor)を3層積層したイメージセンサは製品化してますので、MRAM積層の間に挟まっているDRAMをMRAMに置き換えることで実現可能だと思われます(図2)。

 

チップ間を接合する際に必要となる温度にMRAMが耐えきれるのかは、現時点で若干疑問はありますが。

 

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図2. DRAMを積層した3層積層型イメージセンサ

URL: https://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201702/17-013/

 

DRAMをMRAMで代替するモチベーションとしては、消費電力の低減でしょう。

 

DRAMは一定時間経つとデータが消えてしまう揮発性メモリに対して、MRAMは半永久にデータが消えない不揮発性メモリであるため、DRAMに必要なデータのリフレッシュが必要なくなるため、消費電力を削減できます。

 

ただし、MRAMのタイプの内、STT-MRAMは書き込み時間と電力に通常の5倍以上必要であることはウィークポイントです。

 

しかし、数十nsの書き込み時間であればイメージセンサ駆動に必要なスピードとしては必要十分で、かつリフレッシュによる消費電力の大幅低減もあることから、積層してみたいという方向に行くように思われます。

 

MRAMが量産されるのが2021~2022年と予想されることから、2023年頃からイメージセンサ搭載の研究開発が開始されるのではないでしょうか。

 

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図3. SRAM, DRAM, MRAMの各パラメータ比較
URL: https://www.toshiba.co.jp/tech/review/2015/10/70_10pdf/f02.pdf

 

  1. 余談 ~MRAMの新方式~

STT-MRAMの書き込み時間が長いことが問題として取り上げましたが、実はこれ解決する見込みが立っています。

 

最近登場した方式でSOT-MRAMという新方式のMRAMで解決できる可能性があります(図4)。

 

この方式ではスピン軌道トルク(Spin-Oribit Torque: SOT)誘起磁化反転を書き込みに用いることで高速化を図っています。

 

しかし、このSOT方式、発見者の東北大学の深見俊輔先生も“SOTの物理的起源は現時点でも十分には理解されない”と述べており、もしイメージセンサに積層されるようになるには、SOT-MRAMの研究開発+MRAM積層イメージセンサの研究開発が必要です。

URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/86/7/86_565/_article/-char/ja/

 

この方式が取り入れられたら、MRAM積層イメージセンサの量産は10年以上後になるでしょう。

 

それにしても、MRAMはどの方式が主流になるのか今後の行方が気になって仕方がありません。

 

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図4. STT-MRAMとSOT-MRAMの比較
URL: https://eetimes.jp/ee/articles/1912/11/news037.html